Masukどれほど走ったのか分からない。 息が荒く、膝が震える。 森の湿った土の上に転がるように倒れ込んだ。 「……はぁ……っ、はぁ……っ……」
足がもう動かない。 鼓動が激しくなり、視界がぼやけていく。 (このままでは、捕まる……!) だが、もう走れなかった。 この森で、追っ手が来るのを待つしかないのか——? 森は鬱蒼と茂り、月明かりすら遮られていた。 冷たい夜気が肌を刺し、背後から聞こえる足音がますます恐怖を煽る。 肺が焼けるように痛み、足は鉛のように重い。それでも、立ち止まれば終わりだと、本能が叫んでいた。 そのとき。 ザッ——! 木々の間から何かが飛び出してきた。 セリスは反射的に身をすくめる。 ——剣を持った男だった。 「……誰だ?」 低く、鋭い声。 黒髪の青年。赤い瞳が月明かりに光る。 背には大剣を背負い、無骨な鎧をまとっていた。 (帝国兵……? いや、違う) 彼の鎧は帝国のものではない。 見たことのない紋章が彫られている。 青年はじっとセリスを見つめ、眉をひそめた。 「……お前、追われているのか?」 セリスは震えながら、小さく頷いた。 「帝国兵……村が……!」 それだけ言うのが精一杯だった。 青年はわずかに表情を動かしたが、すぐに真剣な眼差しに戻る。 周囲の気配を探るように、鋭い視線を走らせた。 「追っ手はどこまで来ている?」 「……すぐ、そこに……!」 セリスがそう答えた瞬間—— ガサッ! 森の茂みが揺れた。 そして、帝国兵たちが姿を現した。 「いたぞ! そこだ!」 「王の娘を捕らえろ!」 セリスの心臓が跳ね上がる。 兵たちは無駄なく散開し、まるで狩りを楽しむかのようにじりじりと包囲網を狭めていく。 「王の娘だと? 本当にこんな小娘が……?」 彼らの言葉に、青年は短く舌打ちすると、大剣を抜いた。 「……チッ。厄介ごとに巻き込まれたな」 剣閃が閃いた。 影に紛れるように立つ青年の剣が振り下ろされると、衝撃波のように空気が震えた。 鋭い一撃が帝国兵の槍を弾き、重々しい金属音が森に響いた。 「ぐっ……!」 弾き飛ばされた兵士が地面に転がる。 だが、残る兵たちは怯まなかった。 「この男……腕が立つぞ!」 「構うな! 目標は王の娘だ!」 兵たちは剣を抜き、セリスへと詰め寄る。 (……だめ……!) 恐怖で身体がすくむ。 足が動かない。 そのとき—— 「立っていられるか?」 すぐそばから、青年の声がした。 セリスが顔を上げると、彼が戦いながらも一瞬だけこちらを振り返った。 「……俺の後ろにいろ。手出しはさせない」 その言葉とともに、彼は剣を振り上げる。 そして、敵の剣を受け止め、力任せに弾き返した。 「くそっ、なんて力だ……!」 兵士たちが一瞬ひるむ。 だが、すぐに別の兵が動いた。 「包囲しろ! 一人に構っている暇はない!」 その言葉に呼応するように、兵士たちが散開し、セリスを囲むように動き出した。 (このままでは……!) セリスは息を呑んだ。 このままでは、青年一人では全てを捌ききれない。 帝国兵たちの狙いは明確だった——セリスを捕らえること。 (私が動かなきゃ……) だが、どうすればいい? 剣も魔法も使えない。 それなのに—— 脳裏に、何かがよぎった。 ——記憶? それは、自分のものではない記憶のように感じられた。 (……剣の……構え……?) 血の匂い。剣が交わる音。誰かが叫んでいる——『王を守れ!』 頭の奥底に、誰かの記憶がある。 何百年も前の王が見た光景——剣を振るう戦士の姿。 (なぜ……こんなものが……?) 頭がズキズキと痛む。 だが、時間はない。 「……くそっ!」 セリスは近くに落ちていた兵士の剣を拾い上げた。 そして、無意識のうちに——その刃を構える。 自分のものではない動き——それなのに、腕が勝手に剣を構えていた。 「お、おい、待て!」 青年の驚いた声が背後から響く。だが、セリス自身も、何が起こっているのか分からなかった。 ただ——身体が勝手に動いていた。 その瞬間——帝国兵の剣が振り下ろされる! (来る……!) 短剣を握りしめ、覚悟を決めた——そのときだった。 ——ズバァンッ! 視界の端で、閃光が走る。次の瞬間、目の前の兵士が何かに弾き飛ばされた。 鋭い一撃。 「なっ……!」 驚愕するセリスの視界に、再び青年の姿が飛び込んできた。 木陰から躍り出たその男は、剣を振り抜いた直後の姿勢のまま、静かに敵を見据えていた。 「……余計な真似はするな」 低く、鋭い声。風に揺れる漆黒の髪、月光に照らされた赤い瞳が不気味なほど鮮やかだった。 帝国兵たちは一瞬たじろいだものの、すぐに構えを立て直す。 「くそっ……こいつ、ただの傭兵じゃない……!」 「退け! 包囲を崩すな!」 兵士たちが間合いを詰め直そうとする。 だが——ライルは容赦しなかった。 「遅いな」 一瞬の沈黙。 次の瞬間、ライルの大剣が閃く。 空気を裂く音とともに、兵士の一人が弾き飛ばされた。 彼の動きは、まるで獲物に飛びかかる獣のようだった。 流れるような剣筋。 一閃、二閃——気づけば、帝国兵たちは地に伏していた。 (……強い……) セリスは目を見開いたまま、その光景を見つめていた。 まるで踊るように戦うその姿。 剣の軌跡が月光に煌めき、影が揺れる。 そして—— 「くっ……撤退だ! 王の娘はまた追えばいい!」 指揮官らしき男の声が響く。 生き残った兵たちは次々と森の闇へと消えていった。 ライルは追わなかった。 ふっと息を吐き、剣を下ろす。 その横顔には、わずかな疲労の色。 「……終わったか」 静寂。 再び森に戻った静けさが、不気味なほど耳に残る。 ライルがゆっくりとセリスの方へと視線を向けた。 「……お前」 セリスは思わず身をすくませた。 彼の赤い瞳が、まっすぐこちらを見据えている。 まるで、すべてを見透かすように—— 「……今、剣を構えていたな」 「……っ!」 その言葉に、セリスは息を呑む。 ライルは無言で歩み寄る。 震える指先には、まだ剣が握られている。 ——さっき、確かに「剣の構え」が頭をよぎった。 まるで自分ではない誰かの記憶が流れ込んできたような、奇妙な感覚。 (でも、そんなはずは……私、剣の扱いなんて……) セリスは困惑し、剣をぎゅっと握りしめた。 ライルはしばらく彼女を見つめていたが、やがて小さく息を吐き、頭をかいた。 「……まぁいい。今はさっさとここを離れるぞ」 「え……?」 「しばらくしたら、また追っ手が来る。お前みたいな目立つガキをここに放っておけば、すぐに捕まる」 「が、ガキって……!」 セリスは反論しかけたが、ライルはすでに背を向けて歩き出していた。 「ついて来い。逃げ道くらいは用意してやる」 呆気に取られながらも、セリスは彼の背中を見つめた。 そして、ゆっくりと歩き出す—— (……この人は、一体……?) 疑問を抱えながらも、今は彼に従うしかなかった。 月の光が、森の奥へと続く道を淡く照らしていた。@新たな時代の始まり 崩れゆく帝国王城を駆け抜け、セリスたちはようやく外へと脱出した。 夜空の下、王城の塔が崩れ落ちるのを見上げながら、彼らは荒い息をついた。「……間一髪だったな」 カイが肩をすくめる。 ライルは剣を杖代わりにしながら、王宮の瓦礫を見つめた。 ミアは魔力を探るように目を閉じた後、安堵の表情を浮かべる。「もう……ガルヴァンの魔力の気配は感じない」「なら、終わったってことか……」 カイがそう呟くと、セリスは静かに王宮を見つめた。 帝国の宰相ガルヴァン・ローゼンは滅びた。 エルセリア王国を滅ぼした元凶は消えた。 ——だが、それは終わりではない。 セリスは、王の剣を見つめる。 エルセリアの王たちが継いできた記憶。 この剣は、彼らの意志を託されたもの。 だが、それをそのまま継ぐことが、本当に自分の使命なのだろうか?「セリス?」 ライルが声をかける。 セリスは顔を上げ、静かに微笑んだ。「……私は、この剣に導かれてここまで来た」 そう言って、王の剣を鞘に収める。「でも、これからは——私自身の意志で進む」 ライルは目を見開いた後、静かに頷いた。 カイは微笑み、ミアもレオンも満足そうな表情を浮かべる。「じゃあ、まずはどうする?」 カイの問いに、セリスは空を見上げる。 夜明けが近づいていた。「……新しい時代をつくる」 エルセリアを復興するのか、それとも新しい国を築くのか。 それはまだ分からない。 ——だが、自分の意志で未来を選ぶことだけは、決めていた。 王国の記憶を継ぐ者としてではなく、セリス・エルセリアとして。 光が射す空の向こうへ、彼女は新たな一歩を踏み出した——。 《滅びの王国と記憶の継承者》——完
@玉座の間 —— 宿命の一騎打ち 黒き空間の中、ガルヴァンは悠然とセリスを見下ろしていた。「セリス・エルセリア……いや、“亡国の姫”よ。お前は、なぜここに来た?」 ガルヴァンの問いに、セリスは剣を構えながら睨みつけた。「決まっている。あなたを倒し、すべてを終わらせるためよ!」「終わらせる? 何をだ?」 男の声には、嘲笑の色が混じる。「滅びた王国の意志を継ぐ? 復讐を果たす? それとも、理想に酔いしれた英雄のつもりか?」「……!」「お前は、王としての資格などない。亡霊のように過去に囚われた少女に、世界を変えられるとでも?」 言葉の刃が、セリスの胸を抉る。 しかし、彼女はその痛みを振り払うように、剣を握る手に力を込めた。「いいえ……私は王ではない。私はただ、“私の道”を進むだけ」 ガルヴァンが薄く笑う。「ならば、証明してみせろ——!」 闇が爆発した。 ガルヴァンの手から放たれた黒き魔力が、蛇のようにうねりながらセリスを飲み込もうとする。「くっ……!」 彼女は咄嗟に《王の剣》を振るい、魔力を斬り裂く。だが、次の瞬間にはまた新たな闇が生まれ、絡みつくように襲いかかる。 ——まるで、果てしなく繰り返される絶望のように。「お前は闇には勝てない。この力は……“記憶”の負の側面だ」「記憶の……負の側面?」 セリスは瞬時に悟る。 ——この闇は、ただの魔法ではない。 ガルヴァンは”記憶”を操る彼女と同じように、何かを継承している。 だが、それは”王の記憶”とは異なる、もっと深く、邪悪なもの。「貴様……一体何を継承したの?」 ガルヴァンの笑みが深まる。「エルセリアの王が抱え続けた”絶望”だよ」 その言葉と共に、闇がさらに膨れ上がる。 ——かつての王たちが見た、滅びへの恐怖、屈辱
@ 闇の刃 回廊の静寂を裂くように、ルシアン・ヴォルフは優雅な仕草で短剣を抜いた。「逃げるつもりはないだろう?」 その声には確信があった。まるで、セリスたちがここで抵抗することすら計算のうちだと言わんばかりに。 ——やるしかない。「ライル、カイ、ミア……気をつけて」 セリスが剣を構えた瞬間、ルシアンの姿が消えた。「消えた!?」 カイが驚愕の声を上げる。 影が揺れた。 次の瞬間、ライルの背後にルシアンが現れ、鋭い短剣が喉元を狙う。 ——キィンッ! ライルは紙一重で大剣を振り上げ、攻撃を弾いた。だが、ルシアンはまるで舞うように後方へ跳び、すぐさま新たな斬撃を放つ。「っ……速い!」 ライルの大剣では追いつかない——そう判断したセリスは、すかさず側面から回り込み、剣を繰り出した。 しかし—— ——スッ……! ルシアンは影のように後退し、セリスの刃をかわすと同時に、逆の手に持ったもう一本の短剣をミアへと投げつけた。「くっ……!」 ミアはとっさに魔法障壁を展開。短剣が障壁に突き刺さるが、その衝撃で後ずさった。「反応がいいね……流石、王の末裔の一党」 ルシアンは涼しげに言いながら、再び影へと溶けるように姿を消す。「ちょこまかと……どこだ!」カイがナイフを構え、周囲を警戒する。 ——ルシアンは確実に、影に潜んでいる。「このままでは……一方的にやられる」セリスは歯を食いしばった。 ルシアンの動きは速すぎる。普通に戦っていては、彼の奇襲を防ぎ続けるだけで精一杯だ。 ——何か、突破口を見つけなければ。 その時、ふとセリスの脳裏に過去の王の記憶がよぎった。「影の戦士は、光を嫌う」 (……そうか!)「ミア、カイ! 部屋の灯りを最大にして!」「えっ……?」
@ 帝都ヴァルガルドの闇 地下水路を抜けた先は、帝都ヴァルガルドの下層街。石畳の路地が入り組み、建物はどれも古びている。街灯の光は弱く、人影はまばらだった。「……相変わらず、帝国の影が色濃いな」カイが低く呟く。 この下層街は、帝都の貧困層や裏社会の者たちが集まる場所。帝国の監視も表向きは緩いが、裏では密偵や密告者が潜んでいる。「ここからどうする?」ライルが尋ねる。「まずは情報を集めないとね」とミアが言い、視線をカイに向けた。「あなたのコネ、使える?」 カイは軽く笑った。「もちろんさ。俺に任せとけ」 彼は路地裏へと入り、馴染みの酒場へ向かうことにした。 《黒猫亭》——それが、カイの情報源のひとつだった。 酒場の扉を開けると、煙草の煙と酒の香りが漂う。 客の大半は盗賊や流れ者。カウンターの奥には、黒髪の女主人がグラスを磨いていた。「久しぶりだな、レイナ」 カイが軽く手を挙げると、女主人レイナは目を細めた。「……帝国の指名手配を受けてるあんたが、よくもまあノコノコ戻ってきたもんだね」「そこを何とか頼むよ。ちょっと情報が欲しくてね」「ふん……タダで、とは言わないでしょうね?」 カイは懐から小袋を取り出し、カウンターに置く。中には貴金属が入っていた。 レイナはそれを見て微笑む。「悪くないわね……で、何が知りたいの?」 カイは周囲を見回し、低い声で言った。「——宰相ガルヴァン・ローゼンの動向を知りたい」 その瞬間、酒場の空気が微かに変わった。「……随分と危ないことを聞くじゃない」レイナが声を潜める。「俺たちは、帝都で何か大きなことを起こそうとしてるんだ」とカイ。 レイナは少し考え、やがて口を開いた。「……最近、宰相は帝国城の地下にこもりがちだという噂があるわ」「地下?」「ええ。普通なら貴族
@ 帝都潜入の計画 帝都ヴァルガルド—— そこは帝国の中枢であり、宰相ガルヴァン・ローゼンが支配する巨大な都市。高い城壁に囲まれ、至る所に帝国軍の兵士が配置されている。王族を失ったエルセリアの民が虐げられ、記憶すら改ざんされつつある場所——。 セリスたちはこの都市に潜入し、ガルヴァンの野望を打ち砕くための計画を練る必要があった。「秘密の通路がどこにあるのか、正確に突き止める必要があるわ」 神殿の石壁に手を当てながら、セリスは静かに言った。「私が継承した記憶によれば、帝都へ繋がる“王の道”は、エルセリア王族だけが知る隠された地下通路よ。でも、その入口がどこにあるのかまでは……はっきり思い出せないの」 ライルが腕を組みながら深く考え込む。「それなら、今ある情報から絞り込むしかないな。エルセリア王族の遺構が残っている可能性が高い場所……心当たりはあるか?」 セリスは目を閉じ、王の剣に手を添えた。 過去の記憶を探るように、意識を集中する。 ——暗く冷たい空間。 ——石造りの回廊。 ——そこには、かつての王が最後に足を踏み入れた場所——。「……地下墓所」 ふと、脳裏に浮かんだ言葉を呟く。「エルセリア王家の地下墓所よ。そこには歴代の王が眠っているはず。記憶によれば、その奥に“王の道”が存在する可能性が高いわ」 カイが口笛を吹きながら頷いた。「なるほどねぇ……帝国がそれを完全に破壊してなければ、使えるってわけか」 ミアが顎に手を当てる。「でも、帝都の地下墓所って帝国軍に占拠されてるんじゃない? 何かしらの監視があるはずよ」 レオンが低く唸る。「俺の故郷でも、帝国は支配地域の遺跡を占拠していた。特に王族の墓所なんて、歴史を改ざんするために利用されるか、破壊されるか……どちらにせよ、自由には出入りできないはずだ」 セリスは拳を握りしめた。「それでも
@ 王の記憶——継承の儀 眩い光が神殿を満たす。 セリスの手が泉の水面に触れた瞬間——記憶が流れ込んでくる。 古の王たちの声。 戦い、守り、散っていった者たちの意志。 そして——王国が滅びる直前、最後の王が託したもの。「……これは……!」 彼女の脳裏に、壮大な歴史の断片が駆け巡る。 王家の使命。 エルセリア王国の真実。 そして、帝国宰相ガルヴァン・ローゼンが隠している “真の目的”——「……そういうこと、だったのね」 静かに目を開く。 全てを受け入れた瞳には、迷いがない。 王の剣が金色の輝きを放ち、セリスの背後に幻影のような王たちの姿が浮かび上がる。「ありがとう、皆……」 彼女は王たちの声を胸に刻み、ゆっくりと振り向いた。 仲間たちが、息を呑んで見つめている。 ライルが一歩前に進み、低く呟いた。「……お前、本当に継承したのか」「ええ」 セリスは微笑む。「でも、それだけじゃない。わかったのよ——帝国が、この世界に何をしようとしているのか」 カイが腕を組み、鋭い眼差しを向ける。「それは……俺たちが思ってた以上にヤバい話か?」「ええ」 セリスは、泉を見つめながら言った。「帝国が求めているのは……この世界の “記憶” そのものよ」 王家の記憶によれば—— エルセリア王国が滅びる前、王家は一つの “秘密” を守り続けていた。 それは、この世界に存在する 「根源の記憶」 と呼ばれるもの。 世界に刻まれた、過去・現在・未来の全てを記録する意志。 もしこれを完全に制御すれば——歴史そのものを改変することさえ可能になる。「まさか……帝国は、それを……」 ミアの声が震える。
@ 宿命の対決 霧が晴れ、静寂が広がる。セリスとヴァルドリッヒは互いに睨み合ったまま、一瞬の隙をも見逃さないように構えていた。「貴様の剣筋……以前よりも洗練されているな」 ヴァルドリッヒが目を細める。その口調には、僅かながら興味が混じっていた。「私には戦う理由がある。……過去を取り戻し、未来を切り開くために!」 セリスは強く剣を握りしめる。かつての彼女なら、ヴァルドリッヒを前に立ちすくんでいたかもしれない。だが今は違う。 ——記憶の継承。王家の血に刻
@ 霧の谷の戦い 霧の谷の奥へと進むにつれ、霧はますます濃くなっていった。視界は数メートル先すらも霞み、音さえも吸い込まれるように静寂が支配する。「まるで霧そのものが生きているみたいだな……」カイが周囲を警戒しながら呟く。「この霧は帝国の魔術師たちが作り出したもの。きっと私たちを惑わせるための罠よ」ミアが慎重に歩を進める。「もしこのまま奥へ進めば、向こうの思うつぼね」「なら、どうする?」ライルが低く問う。「……霧の発生源を探して、そこを潰すわ」セリスの瞳が鋭く光る
@ 王の剣と将軍の刃 セリスの手に握られた剣は、淡い光を帯びていた。まるで彼女の決意に呼応するかのように。 ヴァルドリッヒ・カインツは、その光をじっと見つめた後、低く笑った。「なるほど……王家の剣か。エルセリアの血を引く者として、相応しい武器を手にしたというわけだ」 そして、一歩前に出る。「だが——それが貴様の生死を分けるほどの力を持つとは限らん」 彼の足元の土がわずかに沈む。
「……逃げられたか」 ライルは悔しげに剣を納める。 セリスも息を整えながら、周囲を警戒した。 (帝国の追っ手……やっぱり、どこかで監視されていたんだ)「セリス、大丈夫か?」 ライルが振り向いて尋ねる。「うん……大丈夫。でも、たぶんこれからもっと追われることになる」「ああ……それに、あいつらが逃げたってことは、すぐに増援が来るか







